株式会社Abrax Japan(東京、日本)(以下Abrax Japan)は、このたび、ペンシルベニア大学(ペンシルベニア州、フィラデルフィア市、米国)との間で、同大学が保有する上林拓博士(同大学の准教授で、Abrax Japanの共同創業者)が導き出した胸腺間質性リンパ球新生因子(通称TSLP)に関連する発明及び考案の実用的使用の独占ライセンス契約を締結したと発表しました。
この締結により、Abrax Japanは、①湿疹、脱毛症、乾燥肌、老化肌、ニキビ、魚鱗癬などの皮膚・頭皮疾患の治療および予防、②高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、肥満などの脂質代謝異常の治療および予防、という2つの分野において、ペンシルベニア大学が持つ上林博士の研究における知的財産の全世界での独占使用権を確保するに至りました。
上林博士はこれまでに肥満マウスにTSLPを過剰発現させると白色脂肪組織の減少が選択的に誘導されることを発見しました。白色脂肪組織の過剰な蓄積は、糖尿病、心血管疾患、脳卒中のリスク上昇と関連しています。そこで、TSLPを肥満マウスに過剰発現させると、中性脂肪が減少し、血糖値および空腹時インスリン値が改善されました。これにより白色脂肪組織の選択的な喪失は、皮膚のバリア機能のために皮膚から分泌される油性物質である皮脂の分泌が増加することによって起こることが明らかになりました。上林博士のこの先駆的な発見は、『Science』誌に掲載され、その後『Nature Reviews Immunology』誌にも紹介されています。
共同創業者でAbrax Japan CEOの成田譲氏は今回のライセンス契約の重要性について以下のように述べています。 「私たちは、このたびペンシルベニア大学と独占ライセンス契約及び継続的なパートナーシップを結ぶことが出来たことを大変喜ばしく思っています。 2020年にAbrax Japanを設立して以来、私たちはこの基礎研究の発見を臨床的に実現させるために勤しんできました。来年早々にはオーストラリアで初めてヒト臨床試験を開始することにより、大きな一歩を踏み出します。現在Abrax Japanに関わる全員が、世界中の数千万人の患者の生活の質(QOL)を向上させることを目標に、革新的な製品の開発に邁進しています。」
上林博士の基礎研究プログラムからの発見に基づいて、Abrax Japanは現在アトピー性皮膚炎の治療のため、最初の製品候補であるABX-919を開発しています。アトピー性皮膚炎は、幅広い臨床症状と症状の組み合わせをもち、患者のQOLに多大な影響を与えている慢性炎症性皮膚疾患です。一般的に小児の約25%、成人の2~3%がこの疾患に冒されています。臨床症状としては、強いそう痒、紅斑、皮膚乾燥、滲出液、痂皮形成などがあり、主症状はそう痒で、生後早期に現れ、しばしば喘息などのアレルギー性疾患に先行します。現在の治療法としては、環境刺激やアレルゲンへの曝露を減らすための生活習慣の改善、皮膚の保湿、痒みの局所コントロールが基本となっています。また、アトピー性皮膚炎(AD)では、外用抗炎症剤(コルチコステロイド)、カルシニューリン阻害剤(ピメクロリムス、タクロリムス、クリサボロール)、経口抗ヒスタミン剤治療などによる複数の治療が行われています。しかし、これらの製品を小児および青年期に使用する際の安全性については、米国食品医薬品局(FDA)が懸念しているところです。
ABX-919は速乾性のスプレー式外用剤で、簡単に塗布できることが特徴です。ABX-919は従来の製品とは異なり、病変部ではなく皮膚の健康な部分に塗布することで、皮脂分泌の促進や制御性T細胞のアップレギュレーションを期待するものです。また、ABX-919が促進する皮脂分泌は、アトピー性皮膚炎患者の状態を改善するために望ましい自然な皮膚バリア機能を生み出せると期待されています。Abrax Japanはアトピー性皮膚炎以外にも、高トリグリセリド血症、男性型脱毛症、ドライアイなど、上林博士の発見を基にした幅広い適応症への臨床応用をさらに発展させていく計画です。
ABX-919について
ABX-919は、乾癬用に商業的に承認された製品を基に再調合された薬剤であり、米国FDA下での505(b)(2)を基とした承認プロセスを活用して迅速な承認を目指すことができます。ABX-919はアトピー性皮膚炎の治療のために皮膚投与されるスプレー剤として特別に処方されます。
Abrax Japanについて
Abrax Japanは2020年に設立され、ペンシルベニア大学の上林拓博士による基礎研究の商業化に注力しています。TSLPとその医療応用への真の価値に注目したCEOの成田譲氏は、上林博士と提携し、東京に日本法人である株式会社Abrax Japanを設立しました。Abrax Japanは、初期の開発活動をサポートするために民間投資家及びベンチャーキャピタルからシード資金を通じて500万米ドル(約5.5億円)を調達しています。
編集部注釈: 上林拓博士は、ペンシルバニア大学における研究のスピンアウト企業である株式会社Abrax Japanの共同創業者で、Abrax Japanはペンシルバニア大学の上林博士の研究室で発見された様々な研究成果を商業化することに焦点をあてています。ペンシルバニア大学の上林博士の研究室である「Kambayashi Lab」は、Abrax Japanから委託研究費を得ています。また、上林博士は、Abrax Japanの株式を保有しています。なお、この度の契約締結に伴い、ペンシルベニア大学と上林博士は、ペンシルベニア大学の知的財産のライセンスに関連する金銭的対価をAbrax Japanから受領しており、将来においても追加の金銭的対価を受領する計画となっています。
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